目次主文当事者の主張裁判所の判断発言集

東京地裁平成9年5月26日判決

ニフティ名誉毀損事件第一審判決


第三 争点についての当事者の主張

 一 本訴関係

1 原告の主張

 (一) 被告Y1の責任

 (1) 原告は、ニフティサーブで会員情報を公開していたほか、被告ニフティ(Y3)が発行する雑誌「ONLINE TODAY JAPAN」の平成5年9月号においては、「C**」が原告であることが明らかにされていた。また、原告は、ニフティサーブのオフラインパーティー(会員を集めて開催されるパーティー)にも積極的に参加し、自己のID番号を印刷した名刺を多数の者に配付していた。さらに、被告Y1も、その発言中で、「C**」が原告であることを明言していた。これらの事情に照らすと、本件フォーラムに参加したニフティの会員なら誰でも、「C**」が原告であることを知り得たというべきでる。したがって、本件各発言によって、原告の社会的評価が低下し、その名誉が毀損されたことは明らかである。

 (2) 被告Y1の責任
 被告Y1は、故意又は過失によって、本件各発言を本件フォーラムの電子会議室に書き込んだものであるから、不法行為に基づき、原告の損害を賠償する責任がある。

 (二) 被告Y2の責任

 (1)<1> 本件フォーラムのシスオペである被告Y2は、被告ニフティ(Y3)との間のフォーラム運営契約によって本件フォーラムの運営・管理を委ねられており、他人を誹謗中傷するなど会員親約に違反する発言を削除することもできる地位にあること、<2> これに対し、右のような発言によって被害を被った者には、有効な対抗手段が与えられていないこと、<3> ニフティサーブの会員規約、フォーラム運営契約書(丙1)及びフォーラム運営マニュアル(丙2。以下「運営マニュアル」という。)の記載内容に照らし、ニフティサーブにおいては、他人を誹謗中傷するような違法な発言については、原則として削除することがルールとして確立されていたというべきこと、<4> 被告ニフティ(Y3)は、会員に対し、フォーラムに書き込まれる発言を常時監視すべき一般的注意義務を負うと解すべきところ、被告Y2は、被告ニフティ(Y3)に代わってフォーラムの運営・管理を行っている者であるから、被告ニフティ(Y3)と同様の義務を負うものと解すべきこと(被告Y2及び同ニフティ(Y3)は、被告Y2の注意義務の存否について、作為義務の存否の観点からのみ論じているが、それだけでは不十分というべきである。)等を総合すると、被告Y2には、本件フォーラムの電子会議室に書き込まれた発言が他人の名誉を毀損しないかを常時監視し、そのような発言が書き込まれた場合には、これを削除したり、右発言を書き込んだ会員を直接指導するなどして、右発言の有線送信を未然に停止し、また、当該会員に、その後さらに他人の名誉を毀損する発言を書き込むことを止めさせ、これによる損害の発生、拡大を防止すべき義務があったというべきである。

 (2) ところが、被告Y2は、原告の名誉を毀損する内容の本件各発言の存在を、これらが書き込まれる毎に知りながら、これを削除せず放置した。その結果、本件各発言による原告の損害が拡大したものである。

 (3) したがって、被告Y2には、不法行為に基づき、原告の被った損害を賠償する責任がある。

 (三)被告ニフティ(Y3)の責任
 (1) 使用者責任

 <1> 被告ニフティ(Y3)は、本来自ら行うべきフォーラムの運営・管理の業務を、シスオペに委託して行わせているものであるから、右(二)の被告Y2の不法行為は、被告ニフティ(Y3)の事業の執行につきされたものである。

 <2> そして、フォーラム運営契約(丙1)、運営マニュアル(丙2)によれば、シスオペは、第三者に対する誹謗中傷等を内容とする文章が書き込まれた場合の対応については、被告ニフティ(Y3)に対する連絡や、右発言を削除するか否かの判断、処理について、被告ニフティ(Y3)から詳細な義務を課せられており、また、シスオペをフォローするために被告ニフティ(Y3)がシスオペに対して行った指示にも拘束されると解される。さらに、フォーラム運営契約では、被告ニフティ(Y3)は、シスオペを解任することができるものとされており、本件各発言がされる以前にも、現実に被告ニフティ(Y3)によってシスオペが解任され、同被告の従業員が当該フォーラムのシスオペを代行したこともあった.これらの事情に照らすと、被告ニフティ(Y3)とシスオペである被告Y2との間には、使用者責任の基礎となるべき実質的な指揮監督関係があるというべきである。

 <3> したがって、被告ニフティ(Y3)は、使用者責任に基づき、右(二)の被告Y2の不法行為によって原告が被った損害を賠償する責任がある。

 (2) 債務不履行(安全配慮義務違反)

 <1> 電気通信事業法一条が同法の目的として「利用者の利益」の保護をあげていると、ニフティサーブ上で被害を受けた会員を保護し得る立場にあるのは被告ニフティ(Y3)及び同被告からフォーラムの運営・管理を委託されたシスオペのみであること、被告ニフティ(Y3)は、会員に対して有償で各種サービスを提供していることに照らすと、被告ニフティ(Y3)は、会員との間の会員契約に基づく付随義務として、ニうティの会員が、ニフティサーブの利用により犯罪等の被害に遭遇しないよう配慮して会員に損害が生じるのを未然に防止し、損害発生を防止できないときでも損害を最小限度に止めるべき契約上の安全配慮義務を負うと解すべきである。そして、本件において、被告ニフティ(Y3)が、原告に対して負う安全配慮義務の具体的内容は次のとおりである。

i 電子会議室に会員の名誉やプライバシーを侵害するような書き込みがないかを常時監視し、このような書き込みがされた場合はこれを削除して当該会員の損害を最小限度に押さえるべく努力し、かつ、かかる不法な発言をした会員を適切に指導する義務

ii ニフティサーブ上で名誉毀損等の被害にあった会員に対し、加害者である会員の氏名及び住所を開示する義務

 <2> 履行補助者の故意・過失による債務不履行
 被告ニフティ(Y3)は、フォーラムの運営・管理を第一次的にはシスオぺに委託しているから、右<1>の安全配慮義務は、シスオペが被告ニフティ(Y3)の履行補助者として履行することになる。そして、本件フォーラムのシスオペの被告Y2には、右(二)(2)のような注意義務違反があるところ、これは、被告ニフティ(Y3)が右<1>iの義務に違反したのと信義則上同視すべき行為というべきであるから、被告ニフティ(Y3)は、原告に対し、債務不履行責任を負う。

 <3> 被告ニフティ(Y3)による債務不履行

i 右<1>iの義務違反

被告ニフティ(Y3)は、

a 別紙発言一覧表(二)の符号6ないし11の各発言については、原告が平成6年1月6日付け電子メール(通信回線を通して、特定の相手方に対して送る手紙のようなもの)で明確に削除を要求してから同年2月15日までの間、これらを削除せずに放置した。

b 同一覧表(一)記載の符号1及び2、並びに同一覧表(二)記載の符号1ないし5及び12の各発言については、平成6年になってから、担当者が被告Y1の発言を読んだ際に名誉毀損発言と判断し、直ちに削除すべきであったのに、これを行わず、平成6年5月25日に、ようやくこれらを電子会議室の登録から外す処理をした。

c 右a及びb以外の本件各発言については、被告ニフティ(Y3)は、少なくとも訴状送達後、直ちにこれらを削除すべきであったのに、右bと同様の処理をした。
 被告ニフティ(Y3)のこのような行為は、右<1>iの義務に違反するものである。

ii 右<1>iiの義務違反
 原告は、被告ニフティ(Y3)に対し、平成6年2月14日付け書面及び同年3月10日付け書面をもって、被告Y1の住所氏名の開示を要求したが、同被告はこれを拒否した。このような被告ニフティ(Y3)の行為は、右<1>iiの義務に違反するものである。
 被告ニフティ(Y3)は、被告Y1の住所氏名の開示を拒否した理由として電気通信事業法104条をあげるが、通信当事者の一方たる原告に、他方の通信当事者たる被告Y1の住所氏名を開示することは同条にいう「通信の秘密を侵」す行為にはあたらないと解すべきであるから、同被告の主張には理由がない。

iii そして、右i及びiiの義務違反の結果、本件各発言による原告の損害が拡大したのであるから、被告ニフティ(Y3)は、原告に対し、債務不履行に基づき、その損害を賠償する責任がある。

 (四) 損害額及び謝罪広告の必要性

 (1) 本件各発言の内容はその一つ一つが極めて悪質であること、同一フォーラム上に継続、反復して書き込まれていること等に照らすと、本件各発言によって原告に生じた損害に対する慰謝料の額としては、1000万円が相当である.そして、原告の、被告らそれぞれに対する請求権は、不真正連帯の関係にあると解されるから、被告らは、原告に対し、各自、1000万円の損害を賠償する責を負うものである。

 (2) また、本件各発言によって、原告が被った損害の回復のためには、被告らにおいて、ニフティサーブ上に、別紙1の謝罪広告を同別紙記載の掲載条件で掲載することが必要というべきである(ただし、被告ニフティ(Y3)に対しては、使用者責任のみに基づいて、謝罪広告掲載の請求をするものである。)。


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作成責任者:町村泰貴
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