国賠地裁判決目次国賠控訴審第二次文書提出命令申立却下決定最高裁逆転無罪判決解説

 四 争点三2(本件二審判決の違法性の有無)について

(原告の主張)

1 情況証拠に関する判断の違法性

   

(一) アリバイの排斥について

 原告にアリバイが成立していたことについては、原告の前記主張第5・1(検察官)及び第5・3(一審判決)で主張したとおりである。    

(二) 検問関係証拠について

 本件二審において、検察官が、本件検問表の証拠申請について、その立証趣旨を本件一審とは異なる「検問メモを引写した物の存在とその内容」とし、非供述証拠として申請したので、弁護人は、伝聞法則の逸脱であり違法であるとの反対意見を述べたにもかかわらず、本件二審裁判所は、弁護人の意見を無視して採用した。

 そのうえ、本件二審判決は、熊谷武之巡査が検問に立合い、自ら体験した検問通過車両の通過時刻、通過順序を藁半紙に記載してメモを作成し、さらに、上司の指示で熊谷自身が浄書したものがこの検問表であるから、検問車両の通過の時刻とか通過の順序は正確に記載されていると認定し、引き続き、伝聞証拠の問題について、「一審佐藤腎一証言は証言内容の如き記載のある書面が存することを言うものであって、なんら伝聞に当たらず」と判断して、本件控訴を棄却した。

 しかしながら、本件二審判決は、本件一審判決に対する弁護人の伝聞法則違反であるという批判をかわすために、熊谷が、実際には、上司から藁半紙を渡され浄書しただけであって本件検問には立会っておらず、藁半紙のメモを作成していないことは熊谷及び渡辺正紀の証言で明らかであるのに、当時本署の所属であって上司の指示により浄書に関わっただけの熊谷を検問実施者と認定したうえ、さらに浄書の元となった藁半紙の検問メモの作成者であると事実に反する認定をしたのである。   

2 物証及びその鑑定に関する判断の違法性

 右後輪付着物と本件事故との関連性及び血痕鑑定に関する判断は、本件一審判決の違法を隠蔽するに急のあまり、本件一審判決に輪をかけた裁判官の良識を疑う認定であり、違法を免れない。   

(一) 本件検問時の右後輪付着物の見落とし認定の違法性

 本件二審判決は、「右後輪タイヤ外側面に付着した血液は約半時間の走行によって乾燥し、しかもタイヤのゴムの一部に付着していることで夜間においては単なるよごれとしか見えないことも考えられ、従って事故の具体的態様の連絡がない時点で夜間車体を見分するときは、衝突による車体の毀損というような犯跡とは異なり、タイヤの一部に付着した痕跡が見過されるのはあり得ないことではなく、」と認定しているが、当該判示には全く説得力がなく、さらに、弁護人申請の夜間実験検証を退けておいて、検問警察官が右後輪付着物を見落としたに過ぎないと認定したことは、違法である。   

(二) 防火ライトにおいて右後輪付着物が発見されたとの判断の違法性

 本件二審判決は「文屋巡査部長の指示で日本防火ライト工業仙台工場に赴いた二瓶、斉藤両巡査が、被告人車の右後輪タイヤに血液ようのものを現認していながら、車両をそのままにして署に戻って来たことで、文屋巡査部長から注意を受け、直ちに宇田川巡査らが日本防火ライト工業仙台工場に赴いており、右の経緯に滑らせば、二瓶、斉藤両巡査が前叙の如く22日午前中すでに日本防火ライト工業仙台工場にあった被告人車の右後輪タイヤに血液らしいものを現認していたということができる。」と認定し、更に引き続いて、右後輪付着物が発見されたのは岩沼署においてである、とする、原告の員面調書の記載の問題について「被告人の員面調書には、その旨の明らかな記載はない。」とまで判示した。

 これに対して、本件無罪判決は、
 [1] 車当たり捜査報告書の記載内容の虚偽性を示唆し、
 [2] 二審判決の認定する捜査経過はそれ自体不自然である、
 [3] 防火ライトで右後輪付着物を発見しておきながら、二度日の来訪の際も何らの証拠保全措置もとらずに原告に運転させて移動したということは不可解である。
としているほか、原告の員面調書の記載の問題についても、原告が右後輪付着物を初めて確認したのは岩沼署においてであると解される、と判示している。

 本件二審裁判所において、本件上告審と同様の判断をすることを妨げる事情は何もなく、本件二審判決の右判断は違法である。   

(三) 江守鑑定・上山鑑定を無視した違法性

 本件二審判決は、轢過態様と右後輪付着物の付着機序について「被告人車の右後輪外側タイヤの外周寄りの部分が地上に横たわる状態でいた被害者の額から頭部前面部分に乗り上げてその部分の皮膚等を剥ぎ取るような形で轢過した結果、右のような損傷を与えるとともに剥がれたものがタイヤ外側面に触れて血痕及び毛髪を付着させたものということができる。」と認定し、さらに江守鑑定については「江守鑑定は右後輪が、前叙の轢過態様と異なり、被害者の頭部から顔面上部にかけての部位に乗り上がった後横ずれすることなくそのまま轢過し去った場合についていうにとどまるものであって採用の限りでなく、」と判示した。

 しかしながら、本件二審判決の認定した右轢過態様は、上山鑑定の「被害者の頭蓋骨骨折の骨折線が前後方向であることなどから、顔面を路面に当てた姿位で、自動車のタイヤに轢過され・・・・前額部の広範囲にわたる剥離を伴う本創は・・・・頭蓋骨骨折にともなって骨折部の前方への移動によって内部から形成されるものである。」との轢過態様とも、明らかに反しており、また、江守鑑定に対しても反対鑑定がないにもかかわらず、前記のように、なんら実証的な裏付けのない本件二審判決の創造にかかる轢過態様と異なるから江守鑑定を採用しない、とするのは違法である。    

(四) 血液予備試験の意義とその結果を曲解する判断の違法性

 本件二審判決は、予備試験の反応が陽性であるということだけで血液であるといえるかのような判示をしているが、それは予備試験の結果について、過失による誤解ではなく意図的な曲解というほかない。    

(五) 船尾鑑定に対する恣意的判断の違法性

 船尾鑑定について、本件二審判決は、鑑定資料は血液であるが高度に希釈されており、また、絶対量が少ないために陽性反応を得ることができなかったとの認定をして、船尾鑑定を排斥しているが、とすれば、鑑定資料そのものを船尾鑑定の人血試験である輪環反応法の鋭敏度一万五千倍(抗血清は抗体値一万五千倍のもの)以上に希釈された血液とみることになり、それは被害者の血液が均一に一万五千倍を越えて希釈された状態でタイヤ外側面に付着していたと認定することになるが、それは本件二審判決が自ら認定した、右後輪付着物の付着機序と明らかに矛盾するものであって、本件二審裁判所は、その矛盾を認識しつつ有罪判断を下したことになり、違法な認定である。   

3 異常走行体験供述の任意性・信用性に対する判断の違法性

   

(一) 供述の任意性に関する判断の違法性

 本件二審判決は、原告の異常走行体験供述の任意性の判断において「23日の岩沼警察署での被告人に対する取調の最中に、取調警察官は横山修一から宮城県警察本部鑑識課技術吏員富谷定儀が鑑定した人血であるとの検査結果の連絡を電話で受けているものということができ、従って取調官が被告人に虚偽の事実を告げるという偽計を用いたとの所論は採用の限りではない」と判示している。

 しかしながら、本件二審判決が任意性肯定の前提とした富谷定儀による人血検査・鑑定は、船尾鑑定の結果が出てからその存在が言われるようになったものであり、検査の存在自体の捏造の疑いが濃い。

 本件無罪判決も「富谷技術吏員による検査については、船尾鑑定の結果が出る以前には、そのよう検査が行われたこと自体が血痕鑑定に関する横山技術吏員の証言等にも全く出ていなかったし、横山・富谷両技術吏員の各証言によって、検査の概要が述べられているだけであって、その詳細なデータは保存・提出されていない」と判示し、その存在自体が架空のものであることを示唆している。

 本件二審判決には、右無罪判決と同様の判断を妨げる事情は何もなく、その不合理性を認識しながら認定したのであり違法である。    

(二) 供述の信用性に関する判断の違法性

 本件二審判決は、原告の異常走行体験供述の信用性を肯定している。しかしながら、原告の異常走行体験供述の内容は、明らかに後輪による一回だけのショックであり、被害者が前論、後輪で二回轢過されたという客観的事実と矛盾するものであり、その供述に信用性がないのは明らかであったにもかかわらず、本件二審裁判所は、弁護人の走行実験に関する検証申立を拒絶したうえ、原告の異常走行体験供述の信用性を肯定したのであり、その認定は違法である。   

4 まとめ

 控訴審は、原則として最後の事実審であり、控訴審で救済されなかった被告人は、当然には事実誤認を理由とし最高裁に対して上告することはできないのであるから、控訴審は、最後の事実審として万が一にも無辜を罰することがないように、一審判決に事実誤認がないか、被告人の控訴理由のみならず、控訴審におけるあらゆる主張を十分検討し、慎重な姿勢で審理にのぞむべき義務がある。

 しかしながら、本件二審を担当した裁判官らは、原告の無実の主張に耳を傾けず、逆に、本件一審裁判所の有罪判決を維持することのみに専念し、本件一審判決の事後審査に当たって求められる経験法則、採証法則、論理法則を著しく逸脱し、裁判官に要求される良識を深刻に疑われるような非常識な過誤を犯し、その結果、明由な事実誤認をして、原告の控訴を棄却したが、かかる行為は、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに措いてこれを行使したものであるから、故意又は単なる過失に止まらない重大な過失があり、違法の評価を免れない。

(被告国及び二審裁判官らの主張)   

1 情況証拠に関する判断

   

(一) アリバイの排斥について

 本件二審判決は、擦れ違い車両に関する中川の供述を採用して、同人が宮川魚屋付近で擦れ違ったトラックは原告車両といわざるを得ず、原告がバスと擦れ違った地点は「阿賀の川タクシー」の看板付近であるとする原告の供述は措信できないと認定・判断したのであるが、これが著しく不合理なものとはいえないことは、被告の前記主張第5・3(一審判決)のとおりである。

 また、本件二審判決は、右後輪付着物及び異常走行体験供述の評価をも踏まえて右の認定・判断に至ったのであるが、原告の「アリバイの存在」なる主張の成否は、前述したとおり、結局は、原告車両とバスの擦れ違い地点に関する原告の供述の信用性の有無にかかっているのであるから、他の措信しうる証拠及びそれによって認定できる客観的事実関係に照らし、原告の右供述の信用性を否定して、右主張を排斥したのは当然のことであって、なんら、異とすべきものではない。

 以上のとおり、原告車両とバスとの擦れ違い地点についての本件二審判決の認定・判断が著しく不合理であったとはいえない。    

(二) 検問関係証拠について

 本件二審判決は、佐藤腎一証言の伝聞証拠性につき、「佐藤腎一が『死亡ひき逃げ事件捜査に関する車両調査について』と題する報告書を自ら作成していて、その作成経過及びその過程において知り得た事項につき証言しているところは、右証言内容の如き書面が存することをいうものであって、何ら伝聞に当たらない」旨判示している。そして右認定・判示はなんら著しく不合理なものとはいえない。

 たしかに、熊谷巡査は、本件検問に立ち合っておらず、本件二審判決は、その部分の事実誤認を犯したが、そのことから直ちに、本件検問表の伝聞証拠性を否定するために虚偽の事実を認定しているとはいえず、従って、本件二審判決が著しく不合理な判断をしているとはいえない。

 そして、本件検閲表を証拠として採用したことは伝聞証拠排除の原則に反しない。

 本件検問表の作成に当たった熊谷巡査が、本件検問表作成の経緯について証言しているのであるから、本件検問表は、証拠物(非供述証拠)として当然に証拠とすることができるからである。

 仮に、本件検問表の記載内容が要証事実であるとき、その記載が供述証拠として伝聞法則の適用があるとしても、そもそも検問メモは、業務として検問に当たっていた警察官が、検問当時に、後の業務(犯罪防止)に役立てるため、正確に、かつ、主観を交えることなく、客観的事項を順次時間を追って機械的に記載して作成している(本件検問表は検問メモを正確に浄書した、いわば、検問メモの写しと考えられるので、検問メモと同視できる)のであるから、業務過程文書に比肩すべき高度な信用性の情況的保障があり、刑事訴訟法323条3号に該当し、伝聞法則の例外として証拠能力が付与されると解することができることに鑑みると、この点につき、本件二審判決が国賠法上違法となるものではない。   

2 物証及びその鑑定に関する判断の違法性

   

(一) 本件検問時の右後輪付着物の見落とし認定について

 本件二審判決は、事故の具体的態様の連絡がない時点で夜間車体を見分するときは衝突による単体の毀損というような犯跡とは異なり、タイヤの一部に付着した痕跡が見過ごされることはあり得ないことではない旨判示している。

 そして、本件二審判決の認定・判断は、被告の前記主張の第5・1(検察官)と同様、相応の根拠に基づくものであり、裁判官の判断として著しく不合理なものとは到底いえない。

 そして、本件検問に従事した警察官に本件事故態様が判明していなかったから、原告車両の前面を中心に見分が行われたため、右後輪付着物が見過ごされた可能性が大きいという認定・判断ができる以上、タイヤに付着した人血が夜間にどのように見えるかという観察検証は必ずしも必要とはいいがたく、当該検証申請の採否は、裁判所の訴訟指揮権の範囲内の問題であり、夜間検証申請を却下したことには何ら違法は存在しない。    

(二) 防火ライトにおいて右後輪付着物が発見されたとの判断について

 左記の事情が認められるため、本件二審判決の認定・判断は、相応の根拠に基づくものであり、裁判官の判断として著しく不合理なものであるとは到底いえない。

 (1) 司法警察員文屋義隆らは50・12・22付の「車当たり捜査報告書」、司法警察員林長は同日付の「血痕及び毛髪らしい付着物採取報告書」、技術吏員横山修一は50・12・24付の「現場資料採取報告書」をそれぞれ作成しているところ、これらの報告書によって、右後輪付着物等の押収経緯は明らかであるうえ、これらの報告書が後日作成されたと窺える状況もないこと

 (2) 証拠物と見られるものを発見した場合でも、その発見場所において、常に、かつ、直ちに押収手続が行なわれなければならないというものでなく、任意提出者の利益、証拠物の散逸の危険性等の諸事情を勘案し、場合によっては、最寄りの警察署等において、押収手続をとることもあり得、本件においても防火ライトでの押収手続をとらなかったとも考えられること

 (3) 原告の上司である斉藤富夫の証言によっても、右後輪付着物が、防火ライトで発見されていないとまではいえないこと

 (4) 原告の員面調書の記載から、防火ライトでの右後輪付着物の発見が虚偽であるとの結論を見いだすことが困難なこと    

(三) 江守鑑定・上山鑑定について

 本件二審判決は「医師歳野録良作成の鑑定書、同人の検察官に対する供述調書、司法警察員作成の昭和50年12月22日付死体についての実況見分調書によって認められる被害者の額から頭部前面にかけて表皮が挫滅しその皮膚の一部が剥がれ、頭部から鼻部にかけて頭蓋冠骨折を生じ、両眼から下部の顔面は表皮に挫滅はみられないという傷害の状況、司法警察員作成の昭和50年12月30日付実況見分調書によって明らかな被告人車の右後輪タイヤの状況・・・右後輪タイヤ外側の血痕ようのものも付着の状況・・・被告人車の異常走行の態様を併せ考慮」し、右事実に照らして轢過態様についての判示をしたのであるから、相応の根拠に基づく推認を行っているのであり、本件二審判決が著しく経験則、採証法則に反する不合理なものということはできない。

 なお、仮に、本件二審判決の認定した轢過態様によっては、血痕付着機序が十分に説明できていない面があるとしても、江守鑑定の結論に批判的な上山鑑定及び井上鑑定(井上教授の証言も含む。)があるほか、本件二審判決は、原告の異常走行体験供述をも轢過態様を推認する上で考慮に入れており、その観点から、江守鑑定を排斥しているのであって、全く根拠もなく江守鑑定を排斥しているのではない。

 しかも、有罪、無罪の判断は、工学鑑定以外の各証拠との総合的判断の上でなされているものであるから、個別に江守鑑定のみを排斥した部分のみを取り出して、これをもって裁判官の判断として著しく不合理なものであるなどとは到底いえない。

 以上のとおり轢過態様についての本件二審判決の認定・判断は著しく不合理なものとは到底いえない。    

(四) 血液予備試験及び船尾鑑定について

 本件二審判決の判断は、基本的には本件一審判決と同一であり、原告の主張に対する反論も被告の前記主張第5・3(一審判決)と同様である。   

3 異常走行体験供述の任意性・信用性に対する判断について

 本件二審判決の判断は、基本的には本件一審判決と同一であり、原告の主張に対する反論も被告の前記主張第5・3(一審判決)と同様である。   

4 まとめ

 以上1ないし3を総合すれば、本件二審裁判所の本件二審判決に国賠法上違法となるような特別事情は認められず、違法性がないことは明らかである。


 五 争点四(公務員の個人責任)について

(原告の主張)

  1  左記の理由で公務員個人も不法行為責任を負うべきである。

(一) 民法において機関個人又は被用者自身の直接責任が民法715条の規定によって排除されておらず、これと対比して、公務員の場合に、別異に解釈して別個に扱うべき合理的理由はない。

(二) 国賠法1条2項の規定が、民法715条3項と違って、加害公務員の軽過失の場合の求償権の行使を制限しているが、これは、公務員が軽過失の場合には、その限度で直接責任を負わないが、故意または重過失の場合には、原則どおり直接責任を負うことを示すものである。

(三) 加害公務員に対する責任追及は、公務員に対する国民の監督的作用として極めて有効な手段であり、憲法の民主主義的原理に合致するものであって、また、本来、国民全体の奉仕者であるべき公務員が、故意または重大な過失により国民の権利を侵害した場合には、公務員自身に対して直接責任を追及することが、憲法の基本的人権尊重の原理に合致するものである。

(四) 公務員の故意又は重大な過失による国民の被害については、国民共通の負担である税金のみによって償うのは不合理で、本来重大な責任を負うべき者の個人的負担とすべきである。

(五) 本来、重大な責任を負うべきものが、その責任負担の面で、いわば国家の庇護のもとに退き、自らの身を安全地帯に置くことは、道義的に容認しがたく、国民の正義感情を害するし、また、公務員個人に対する直接責任の追及を認めないのであれば、経済的手当てだけでは満たされない国民の権利感情を著しく阻害する結果となる。

  2  起訴検察官及び本件一、二審担当裁判官らの具体的不法行為は、前記各該当部分で主張した事実と同一であり、その違法性は明らかである。

(被告個人らの主張)

 公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人は直接に賠償責任を負うものではないということは確立した判例である。


 六 争点五(損害額)について

(原告の主張)

 前記のような検察官及び裁判官の違法な職務執行により原告が被った損害は次のとおりである。

 原告は、昭和30年生まれで、昭和50年の本件事故当時は20歳の青年であったが、以来平成元年4月21日に最高裁判所で無罪判決を受けるまで22年をこえる長期間にわたり、被疑者、被告人としての苦痛を骨の髄まで味わい、雪冤を果たしたときには34歳になっていた。

 原告は、雪冤のため、12年を越える裁判闘争を余儀なくされ、人生にとってもっとも輝かしいはずの青春をうばわれた。まさに、裁判一色の青春であった。このような原告の筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を慰謝するには、金1000万円を下らない金銭をもってするのが相当である。

 そして、原告は、被告らの責任を問うために、弁護士である本件訴訟代理人らに本件訴訟の追行を委任し、日本弁護士連合会の定める報酬規定に基づく弁護士費用の支払いを約したが、被告らに負担させる弁護士費用としては、請求金額の10パーセントに該当する金100万円とするのが相当である。


作成責任者:町村泰貴
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