国賠地裁判決目次国賠控訴審第二次文書提出命令申立却下決定国賠第二次文書提出命令許可抗告却下決定最高裁逆転無罪判決解説

目次


 裁判官梶谷玄の反対意見は,次のとおりである。

 原決定は,司法警察員作成の送致書,書類目録及び関係書類追送書について,民訴法220条3号後段の法律関係文書に該当しないことを理由に,抗告人の求めた文書提出命令の申立てを却下した。そして,多数意見は,原決定の結論を支持し,本件抗告を棄却したが,私は,この結論を是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 1 民訴法(以下「新法」という。)220条1ないし3号は,旧民訴法(以下「旧法」という。)312条1ないし3号の規定を現代語化しただけである。しかし,新法220条には新たに文書提出の一般義務を規定する4号(平成13年法律第96号による改正前のもの。同号につき以下同じ。)が加えられたため,文書提出義務に関し,新法220条1ないし3号の文書の範囲が旧法312条1ないし3号のそれと同一かどうかが議論されている。これについては,同一であるか,あるいは,新法のほうが旧法より広いとすることはあっても,新法のほうが旧法より狭いとすることは,文書提出義務を拡大するという民訴法の改正の趣旨からして採り得ないところである(仮に,新法220条4号に一般的な提出義務の規定が設けられたことを根拠に同条3号の文書の範囲を狭く解するという見解が成り立ち得るとしても,現行法の下においては公務文書(公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し,又は所持する文書)については,一般義務化の規定が排除されているのであり(なお,今般平成13年法律第96号として成立した改正民訴法の下でも,刑事事件関係書類等については,依然として一般義務化が見送られている。),このような場合にも同様に狭い解釈を採ることは,民訴法改正の趣旨に反すると考えられる。)。

 2 旧法下においては,「法律関係」の意義について,契約関係あるいは契約を発生原因とする私法上の法律関係に限定されると狭義に解する説と契約以外の原因(不当利得,事務管理,不法行為など)に基づく私法上の法律関係や公法上の法律関係も含まれると広義に解する説が存した。そして,狭義説では類型が多種多様にわたり,しかも証拠が一方当事者に偏在していることもある現代型訴訟に対応することが困難であることから,広義説が多数説であり,多くの下級審裁判例の採るところであったと思われる。
 原決定は,抗告人と相手方との間には,抗告人に有罪と認められる嫌疑があるとして公訴を提起した検察官の判断の合理性いかんに係る法律関係があるとするが,法律関係をこのように広義に解している限度では,正当ということができる。

 3 次に,「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された」文書の意義について,原決定は,挙証者と所持者との間の法律関係の要件事実の全部又は一部が記載されている文書であることを要すると判断しているが,そのような要件事実などという不明確な概念で対象を限定しようとする考えを是認することはできない。
 この点については,挙証者と所持者との法律関係それ自体を記載した文書だけではなく,その法律関係に関連のある事項を記載した文書や法律関係を形成する手続過程において作成された文書も含まれると解すべきである(違法な捜索,差押え,逮捕等に基づく損害賠償請求訴訟において,公判に不提出の捜査報告書等捜査書類の提出義務を認めた東京高裁昭和60年2月21日決定・判例時報1149号119頁,東京高裁昭和62年6月30日決定・判例時報1243号37頁,大阪高裁昭和63年7月20日決定・判例タイムズ681号198頁等参照)。
 これを本件について見ると,本件の本案訴訟では,無罪判決が下された事件につき,検察官の公訴提起の違法性が争点となっているのであるが,その違法性は,公訴提起時点における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったかどうかで判断されるものである(最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁)。そうすると,本件各文書のうち書類目録及び関係書類追送書は,司法警察員から検察官に送られた証拠資料の標目が目録として列挙されて記載してあり,公訴提起時点に検察官の手元に存在した証拠資料の範囲がいかなるものであるかを記載した文書であるということができるから,公訴を提起した検察官の判断の合理性いかんに係る法律関係に関連のある事項を記載した文書であるということができる。さらに,本件各文書のうち送致書は,犯罪捜査の過程において,司法警察員から検察官に対する事件送致に遺漏がないようにする目的で,書類目録及び関係書類追送書は,検察官に送られる捜査関係書類を特定し,その授受に遺漏がないようにする目的で作成される文書であり,上記の法律関係を形成する手続過程において作成された文書であるということができる。したがって,本件各文書は,挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書であるというべきである。

 4 法律関係について作成された文書の範囲を上記のように広く解したとしても,文書の所持者が専ら自己使用のために作成した内部文書は,新法220条3号後段の文書には含まれないと解すべきである(最高裁平成11年(許)第26号同12年3月10日第一小法廷決定・裁判集民事197号341頁参照)。
 原決定は,本件各文書は,いずれも,司法警察員と検察官という捜査機関の内部において,事件送致の手続及び内容を明確にするとともに,司法警察員が認定した犯罪事実と情状に関する意見を付し,事件の円滑,適正な処理を図るために,相互の連絡ないし意見具申用の文書として作成し,授受されるものであるから,内部文書に当たり,法律関係文書には当たらないとする。しかし,原決定のこの判断も是認することができない。
 本件各文書は,刑訴法246条により,別個の官庁に所属する司法警察負から検察官に事件が送致される際に,犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則2号)195条によりその作成が義務付けられている捜査書類であって,検察官のみならず,勾留や保釈の裁判に際して記録を検討する裁判官も参照することのある,刑事手続が迅速,適正に行われることに資するための文書である。このような本件各文書を文書の所持者が専ら自己使用のために作成した内部文書であるということはできない。

 5 以上によれば,論旨は理由があるので,原決定を破棄し,本件各文書の証拠としての必要性を審理判断させるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。


作成責任者:町村泰貴
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