事実及び理由


第1 控訴の趣旨

(甲事件−控訴人Y1)
 1 原判決中控訴人Y1敗訴の部分を取り消す。
 2 同部分についての被控訴人の請求を棄却する。
 3 被控訴人は,控訴人Y1に対し,200万円及びこれに対する平成6年12月20日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 4 被控訴人は,控訴人Y1のために,控訴人ニフティの主宰する商用ネットワーク・NIFTY-Serveにおいて,別紙2の第1項記載の謝罪広告を同第2項記載の掲載条件で掲載せよ。
(乙事件−控訴人Y2)
 1 原判決中控訴人Y2敗訴の部分を取り消す。
 2 同部分についての被控訴人の請求を棄却する。
(丙事件−控訴人ニフティ)
 1 原判決中控訴人ニフティ敗訴の部分を取り消す。
 2 同部分についての被控訴人の請求を棄却する。
(丁事件−被控訴人)
  原判決主文1ないし3項を次のとおり変更する。
 1 控訴人Y1,控訴人Y2及び控訴人ニフティは,被控訴人に対し,各自1000万円及びこれに対する平成9年5月27日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
 2 控訴人Y1,控訴人Y2及び控訴人ニフティは,被控訴人のために,控訴人ニフティの主宰する商用ネットワーク・NIFTY-Serveにおいて,別紙1第1項記載の謝罪広告を同第2項記載の掲載条件で掲載せよ。

第2 事案の概要

(以下,略称等は原判決の例に従う。)

 1 本件の概要

 (1) 本件は,パソコン通信ネットワーク上の発言による名誉毀損等の成否,名誉毀損等となる発言についてのシスオペの削除義務,パソコン通信の主宰者の法的責任等をめぐって争われた損害賠償等請求事件である。
 (2) 原審本訴事件において,被控訴人は,控訴人らに対し,控訴人ニフティの主宰するパソコン通信ニフティサーブで開催されていた現代思想フォーラムと称する電子会議室において書き込まれた控訴人Y1の発言が被控訴人に対する名誉毀損,侮辱,脅迫(侮辱及び脅迫については,当審で追加された。)であるとして,[1] 控訴人Y1に対し不法行為に基づき,[2] シスオペである控訴人Y2に対し,名誉毀損等の発言を削除すべき義務を怠ったとして不法行為に基づき,[3] 控訴人ニフティに対し,控訴人Y2の使用者責任又は会員契約に付随する安全配慮義務違反等の償務不履行責任に基づき,各自1000万円(原審と同額であるが,当審で慰謝料を900万円に減縮し,弁護士費用100万円を追加した。)及びこれに対する不法行為の後である平成9年5月27日(原判決の言渡日の翌日)から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告を求めた。
 原審反訴事件において,控訴人Y1は,被控訴人が[1] 本件フォーラムでスクランブル機能を使って控訴人Y1を事実上排除し,村八分にした,[2] 本件フォーラムにおいて控訴人Y1のプライバシーを暴露したとして,被控訴人に対し,不法行為に基づく慰謝料200万円及びこれに対する不法行為の後である平成6年12月20日(反訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告を求めた。
 (3) 原判決は,原審本訴事件について,[1] 控訴人Y1の本件各発言は名誉毀損に当たる,[2] 控訴人Y2は本件各発言を具体的に知ったときから条理上の削除義務を負い,本件各発言の一部につき削除義務を怠った過失がある,[3] 控訴人ニフティは控訴人Y2の使用者責任を負うとして,控訴人らに対する損害賠償を一部認容(控訴人Y1につき50万円,控訴人Y2及び控訴人ニフティにつき各10万円)し,その余の部分及び謝罪広告請求を棄却し,原審反訴事件について,[1] 被控訴人のスクランブル機能を用いて控訴人Y1を一時的に除け者にした行為は,村八分と同視する程の違法性が認められない,[2] 被控訴人が控訴人Y1のプライバシーを侵害したと認められないとしていずれも棄却した。

 (4) 当審における主張の骨子

 ア 被控訴人

 被控訴人は,本判決別紙発言一覧表(一)から(四)までの発言(原判決別紙発言一覧表(一)から(四)までと同じであるが,名誉毀損部分等を具体的に特定した。以下,「本件発言(一)」等という。なお,原審で名誉毀損に当たると主張した同一覧表(二)符号6,同13及び同(三)符号3発言については,当審でこの主張を撤回した。)について,原審と同様,名誉毀損であり,当審においては,一部が侮辱であり,追加的に,本件発言(五)及び本件発言(二)符号1,同10,同11の一部は脅迫に当たると主張し,本件発言(一)から(五)までがされたことを知りながら,控訴人Y2が,対応のため最大限要する10日を経過してもこれを削除せず,条理上の作為義務に違反し,被控訴人に損害を与えたと主張し,附帯控訴において,控訴人Y1の各発言が,極めて激烈かつ侮辱的表現をもって執拗に繰り返され,専ら人格を攻撃し,誹謗中傷して被控訴人の名誉を著しく毀損しており,原判決の認容した額は不当に低額で,被控訴人の名誉を回復するには,謝罪広告が必要であると主張した。
 なお,被控訴人は,控訴人ニフティに対する,控訴人Y1の氏名等を開示しなかったことを安全配慮義務違反とする主張を撤回した。

 イ 控訴人Y1

 控訴人Y1は,本件各発言を文脈の中で理解すべきであり,その発言経緯や状況からみて名誉毀損等に当たらず,公正な論評であると主張し,仮想空間(サイバースペース)における発言であって,社会的評価の低下を招かないとの原審での主張は撤回した。

 ウ 控訴人Y2

 控訴人Y2は,シスオペによる発言の削除について作為義務が生じるのは,選択権を尊重し,発言の相手方が削除を求める発言を特定して削除の要求をした場合等の要件を満たしたときであり,本件において,控訴人Y2には作為義務違反は生じていないし,生じたとすれば過失がないと主張した。

 エ 控訴人ニフティ

 控訴人ニフティは,原判決がシスオペである控訴人Y2の条理上の作為義務を肯定したのは,誤りであり,裁量権の行使は,それが著しく不合理な場合に限り違法となるに過ぎず,本件では当たらないと主張し,控訴人Y2に対して指揮監督関係を有していないとの原審での主張を撤回した。

 (5) 当裁判所の判断

 当裁判所は,控訴人Y1の本件発言(一)から(五)までのうち,一部は名誉毀損又は侮辱に当たると認めたが,脅迫に当たる発言があるとは認めず,控訴人Y1に対し原審の認容額と同じ50万円(但し,慰謝料40万円,弁護士費用10万円)及び平成9年5月27日から完済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じる限度で相当であるものの,その余の部分及び謝罪広告請求は失当で,控訴人Y2及び控訴人ニフティについては,発言削除義務違反等の責任は認められず,損害賠償の責は負わないと判断した。

 2 当事者

 原判決の事実及び理由第二の一1当事者欄(原判決5頁9行目から同7頁3行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。

 3 争点

 (1) 控訴人Y1の本件発言(一)から(五)までは,被控訴人に対する名誉毀損,侮辱及び脅迫となるか(本訴)。
 (2) 控訴人Y2は,本件発言(一)から(五)までの削除義務を負うか(本訴)。
 (3) 控訴人ニフティの責任(本訴)
 ア 控訴人Y2の使用者としての責任
 イ 会員に対する安全配慮義務による本件発言(一)から(五)までの削除義務
 (4) 損害額及び謝罪広告の要否(本訴)
 (5) スクランブル事件により,控訴人Y1の名誉は毀損されたか(反訴)。
 (6) 被控訴人が控訴人Y1のプライバシーを侵害する書込みをしたか(反訴)。
 (7) 損害額及び謝罪広告の要否(反訴)

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