最判昭和56年9月24日民集35巻6号1088頁

百選90

(詳細判旨)

 二 ところで、いったん終結した弁論を再開すると否とは当該裁判所の専権事項に属し、当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求することができないことは当裁判所の判例とするところである(--先例略--)。しかしながら、裁判所の右裁量権も絶対無制限のものではなく、弁論を再開して当事者に更に攻撃防御の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合には、裁判所は弁論を再開すべきものであり、これをしないでそのまま判決をするのは違法であることを免れないというベきである。

 これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、上告人BはA1が原審の口頭弁論終結前に死亡したことを知らず、かつ、知らなかったことにつき責に帰すべき事由がないことが窺われるところ、本件弁論再開申請の理由は、帰するところ、被上告人A2がA1を相続したことにより、被上告人A2がA1の授権に基づかないでCをA1の代理人として本件不動産のうちの一部をD社に売却する契約を締結せしめ、その履行のために同人の実印をCに交付した行為については、A1がみずからした場合と同様の法律関係を生じ、ひいてCは右の範囲内においてA1を代理する権限を付与されていたのと等しい地位に立つことになるので、上告人Bが原審において主張した前記一(二)の表見代理における少なくとも一部についての授権の表示及び前記一(三)の表見代理における基本代理権が存在することになるというべきであるから、上告人Bは、原審に対し、右事実に基づいてCの前記無権代理行為に関する民法109条ないし110条の表見代理の成否について更に審理判断を求める必要がある、というにあるものと解されるのである。右の主張は、本件において判決の結果に影響を及ぼす可能性のある重要な攻撃防御方法ということができ、上告人Bにおいてこれを提出する機会を与えられないまま上告人B敗訴の判決がされ、それが確定して本件各登記が抹消された場合には、たとえ右主張どおりの事実が存したとしても、上告人Bは、該判決の既判力により、後訴において右事実を主張してその判断を争い、本件各登記の回復をはかることができないことにもなる関係にあるのであるから、このような事実関係のもとにおいては、自己の責に帰することのできない事由により右主張をすることができなかった上告人Bに対して右主張提出の機会を与えないまま上告人B敗訴の判決をすることは、明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反するものというべきであり、したがって、原審としては、いったん弁論を終結した場合であっても、弁論を再開して上告人Bに対し右事実を主張する機会を与え、これについて審理を遂げる義務があるものと解するのが相当である。しかるに、原審が右の措置をとらず、上告人Bの前記一(二)の抗弁は授権の表示を欠くとし、また、同一(三)の抗弁はその前提となる基本代理権を欠くとしていずれもこれを排斥し、上告人B敗訴の判決を言い渡した点には、弁論再開についての訴訟手続に違反した違法があるものというべく、右違法は前記のように判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、右の点につき更に審理を尽くさせるのが相当であるから、本件を原審に差し戻すこととする。


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