東京高判昭和52年7月15日判時867号60頁

 百選118

(事実)

 テレビ番組の制作を請負う会社Xは、製薬会社Yをスポンサーとするテレビ映画を作成していたが、後にYとのスポンサー契約の成立が争いとなり、制作準備費用等の賠償を求める訴えを提起した。一審で契約の成立が否定され請求棄却となったので、X社代表取締役AはY社広告係長Cから有利な供述を得るために、仲介者とともにCとの会食の席を設け、そこでの会話を秘密裏に録音した後、その録音テープの反訳文書を控訴審で契約成立を裏付ける証拠として提出した。


(判旨)

控訴棄却

 「民事訴訟法は、いわゆる証拠能力に関しては何ら規定するところがなく、当事者が挙証の用に供する証拠は、一般的に証拠価値はともかく、その証拠能力はこれを肯定すべきものと解すべきことはいうまでもないところであるが、その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によつて採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべきである。そして話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当っては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきものと解するのが相当であり、これを本件についてみるに、右録音は、酒席におけるCらの発言供述を、単に同人ら不知の間に録取したものであるにとどまり、いまだ同人らの人格権を著しく反社会的な手段方法で侵害したものということはできないから、右録音テープは、証拠能力を有するものと認めるべきである。そこで右録取にかかるCの供述をとってもってX主張の契約の成立を認める資料と評価し得るかどうかについて考えるに、右供述は、前認定のようにAからその後援者に自己の立場を有利に説明して欲しいとの要請をうけたCらが酒食の饗応を受ける席上においてなされたものであつて、右Aの誘導的発問に迎合的に行われた部分がないでもないと認められるので、右録音テープに録取されたCの供述部分はにわかに信用しがたいものがあり、そのほかの証拠資料をもつてしてもX主張の契約の成立を認めさせるには足りない。」


判例評釈・解説

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