最判昭和63年1月26日民集42巻1号1頁

百選11

(事実)

 本件土地は訴外Aを通じてYが購入し、さらにAの仲介で訴外B会社に売却されることとなった。ところがAとBとの交渉中にBの依頼した土地家屋調査士Xが面積を過小に見積もって測量し、これに基づいて売買代金を定めたため、真の売主Yは損失を被った。そこでYがXに対して損害賠償を求めたところ、XはYにではなくBの依頼に基づいて測量したことを理由に請求棄却判決が確定した。これを踏まえてXがYに対し、前訴の提起を不法行為としてその損害の賠償を求めたのが本訴である。

 原審はこれを認め、80万円の弁護士費用の賠償をYに命じた。


(判旨)

破棄自判

 「法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたつては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。したがって、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。

 以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし、訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。

 これを本件についてみるに、前訴提起の当時、訴外B会社に本件土地を売り渡したのは上告人Yで、被上告人Xに対する測量の依頼も訴外B会社を通じて上告人Yがしたことであって、被上告人Xの誤つた測量により損害を被ったと考えていたところ、本件土地が上告人Yの買い受けたもので、Aは、破産管財人との関係を慮り、上告人Yの承諾を得たうえ自己の名でこれを訴外B会社に売り渡す契約をしたのであり、しかも、右契約は精算のため後日測量することを前提としていたのであるから、実質上、Aが上告人Yの代理人として売買契約及び測量依頼をしたものと考える余地もないではないこと、上告人Yが、Aにおいて訴外B会社に働きかけて本件土地の面積を実際の面積よりも少なくし、その分の代金相当額を訴外B会社と折半しようとしているとの情報を得て、訴外B会社に対し、本件土地の所有者は上告人Yであるから残代金を支払って欲しい旨の通知をしていたのに、訴外B会社が被上告人Xの測量結果を盾にとって精算に応じようとしなかつたことなどの事情を考慮すると、上告人Yが被上告人Xに対して損害賠償請求権を有しないことを知っていたということはできないのみならず、いまだ通常人であれば容易にそのことを知りえたともいえないので、被上告人Xに対して測量図等が何人のどのような依頼や指示に基づいて作成されたかという点につき更に事実を確認しなかったからといって、上告人Yのした前訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず、したがって、被上告人Xに対する違法な行為であるとはいえないから、被上告人Xに対する不法行為になるものではないというべきである。」


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