最判昭和60年12月20日判時1281号77頁

百選48

(事実)


 Y社は、昭和46年に豊前市の一部海域を埋め立てて、出力50万キロワット二基の発電機を備える重油専焼式の豊前火力発電所を建設する計画を立て、右発電所の建設用地として、豊前市の八屋明神地区の公有水面約39万平方メートルの埋立につき、福岡県知事の埋立免許を得て、昭和50年10月3日現在既に第一工区の埋立を完了し、第二工区も完了に近く、全体の三分の二の埋立を終え、出力50万キロワットの火力発電所一号機の建設を完成し、現在操業中である。

 これに対してXら7名は、憲法13条、25条に基づき、健康で快適な生活を維持するに足る良好な環境を享受し支配する権利、即ち環境権を有するとし、漁業者でも農業者でもないXらにとっても漁業被害、農業被害は、直ちに生活環境に悪影響を与えるから、これらに言及する必要があり、また、今後豊前平野に流入してくる人々のためにも現在の環境を守り抜く必要があると主張した。そして、Xらそれぞれの私的権利、私的利益を追求しているのではなく、豊前平野、豊前海の地域の環境保持を目的とし、地域の代表として本訴の提起、追行をしているものであるとして、環境権に基づき操業差止及び原状回復を求める訴えを提起した。

 第一審及び控訴審はいずれも環境権を実体法上是認できる権利主張とは言えず、審判の対象としての資格を欠く不適法な訴えであるとして却下した。

 Xら上告。

[判旨]上告棄却

  上告人らの本件訴訟追行は、法律の規定により第三者が当然に訴訟追行権を有する法定訴訟担当の場合に該当しないのみならず、記録上右地域の住民本人らからの授権があつたことが認められない以上、かかる授権によつて訴訟追行権を取得する任意的訴訟担当の場合にも該当しないのであるから、自己の固有の請求権によらずに所論のような地域住民の代表として、本件差止等請求訴訟を追行しうる資格に欠けるものというべきである。 なお、講学上、訴訟提起前の紛争の過程で相手方と交渉を行い、紛争原因の除去につき持続的に重要な役割を果たしている第三者は、訴訟物たる権利関係についての法的利益や管理処分権を有しない場合にも、いわゆる紛争管理権を取得し、当事者適格を有するに至るとの見解がみられるが、そもそも法律上の規定ないし当事者からの授権なくして右第三者が訴訟追行権を取得するとする根拠に乏しく、かかる見解は、採用の限りでない。 また、上告人らの主張、裁判所の釈明命令に対する上告人らの応答その他本件訴訟の経過に照らし、上告人らが他になんらかの自己固有の差止請求権に基づいて本件訴訟を追行し、当該権利主張に基づき当事者適格を有するものと解すべき余地もなく、結局、上告人らは、本件差止等請求訴訟につき当事者適格を欠くというに帰着し、上告人らの本件訴えは、不適法として却下すべきのとするほかない。


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