最判昭和48年4月5日民集27巻3号419頁



 記録によれば、本件の経過は、次のとおりである。すなわち、
 被上告人Xは、第一審において、療養費29万6266円、逸失利益1128万3651円、慰藉料200万円の各損害の発生を主張し、療養費、慰藉料の各全額と逸失利益の内金150万円との支払を求めるものであるとして、合計379万6266円の支払を請求したところ、第一審判決は、療養費、慰藉料については右主張の全額、逸失利益については916万0614円の各損害の発生を認定し、合計1145万6880円につき過失相殺により三割を減じ、さらに支払済の保険金10万円を差し引いて、上告人の支払うべき債務総額を791万9816円と認め、その金額の範囲内である同被上告人の請求の金額を認定した。上告人の控訴に対し、原審において、被上告人Xは、第一審判決の右認定のとおり、逸失利益の額を916万0614円、損害額の総計を1145万6880円と主張をあらためたうえ、みずから過失相殺として三割を減じて、上告人の賠償すべき額を801万9816円と主張し、附帯控訴により請求を拡張して、第一審の認容額との差額422万3550円の支払を新たに請求した(弁護士費用の賠償請求を除く。以下同じ。)ところ、これに対し、上告人は右請求拡張部分につき消滅時効の抗弁を提出した。原判決は、療養費および逸失利益の損害額を右主張のとおり認定したうえ、その合計945万6880円から過失相殺により七割を減じた283万7064円について上告人が支払の責を負うべきものであるとし、また、慰藉料の額は被上告人Xの過失をも斟酌したうえ70万円を相当とするとし、支払済の保険金10万円を控除して、結局上告人の支払うべき債務総額を343万7064円と認め、第一審判決を変更して、右金額の支払を命じ、その余の請求を棄却し、さらに、附帯控訴にかかる請求拡張部分は、右損害額をこえるものであるから、右消滅時効の抗弁について判断するまでもなく失当であるとして、その部分の請求を全部棄却したものである。

 右の経過において、第一審判決がその認定した損害の各項目につき同一の割合で過失相殺をしたものだとすると、その認定額のうち慰藉料を除き財産上の損害(療養費および逸失利益。以下同じ。)の部分は、(保険金をいずれから差し引いたかはしばらく措くとして。)少なくとも239万6266円であつて、被上告人Xの当初の請求中財産上の損害として示された金額をこえるものであり、また、原判決が認容した金額のうち財産上の損害に関する部分は、少なくとも(保険金について右と同じ。)273万7064円であって、右のいずれの額をもこえていることが明らかである。しかし、本件のような同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実および被侵害利益を共通にするものであるから、その賠償の請求権は一個であり、その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも、訴訟物は一個であると解すべきである。したがって、第一審判決は、被上告人Xの一個の請求のうちでその求める全額を認容したものであって、同被上告人の申し立てない事項について判決をしたものではなく、また、原判決も、右請求のうち、第一審判決の審判および上告人の控訴の対象となつた範囲内において、その一部を認容したものというべきである。そして、原審における請求拡張部分に対して主張された消滅時効の抗弁については、判断を要しなかったことも、明らかである。

 次に、一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたっては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し、残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきである。このように解することが一部請求をする当事者の通常の意思にもそうものというべきであって、所論のように、請求額を基礎とし、これから過失割合による減額をした残額のみを認容すべきものと解するのは、相当でない。したがって、右と同趣旨において前示のような過失相殺をし、被上告人Xの第一審における請求の範囲内において前示金額の請求を認容した原審の判断は、正当として是認することができる。


判例評釈
萩屋昌志・民事訴訟法判例百選(第3版)83事件

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