最大判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁

百選49

(事実)


 A建設工業共同企業体は、Y県知事の発注にかかる水害復旧建設工事の請負及びこれに付帯する事業を共同で営むことを目的とし、Xほか四名の構成員によって組織された民法上の組合であり、その規約上、代表者たるXは、建設工事の施行に関し企業体を代表して発注者及び監督官庁等第三者と折渉する権限ならびに自己の名義をもって請負代金の請求、受領及び企業体に属する財産を管理する権限を有するものと定められていた。

 A企業体はY県との請負契約に基づき工事を行っていたが、Y県が途中で工事中止を命じ、他の業者に同工事の続行を発注したため、Xは自己の名で、Yに対してA企業体の被った損害の賠償を求める訴えを提起した。

 原審はXが本訴につき当事者適格を有しないことを理由に、次のように説示して、本件訴を不適法として却下した。

右企業体は民法上の組合であるから、訴訟の目的たる右損害賠償請求権は組合員である企業体の各構成員に本来帰属するものであるが、Xは、前示組合規約によって、組合代表者として、自己の名で前記の請負代金の請求、受領、組合財産の管理等の対外的業務を執行する権限を与えられているのであるから、Xは、自己の名で右損害賠償請求権を行使し、必要とあれば、自己の名で訴訟上これを行使する権限、すなわち訴訟追行権をも与えられたものというべきである。したがって、本件は、組合員たるA企業体の各構成員がXに任意に訴訟追行権を与えたいわゆる任意的訴訟信託の関係にあるが、訴訟追行権は訴訟法上の権能であり、民訴法四七条のような法的規制によらない任意の訴訟信託は許されないものと解すべきであり、Xが実体上前記の権限を与えられたからといって、これが訴訟追行権を認めることはできず、Xは、本訴につき当事者適格を有しない
 X上告。

[判旨]破棄差戻

 訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決せられるべきものである。したがって、これを財産権上の請求における原告についていうならば、訴訟物である権利または法律関係について管理処分権を有する権利主体が当事者適格を有するのを原則とするのである。しかし、それに限られるものでないのはもとよりであって、たとえば、第三者であっても、直接法律の定めるところにより一定の権利または法律関係につき当事者適格を有することがあるほか、本来の権利主体からその意思に基づいて訴訟追行権を授与されることにより当事者適格が認められる場合もありうるのである。

 そして、このようないわゆる任意的訴訟信託については、民訴法上は、同法四七条が一定の要件と形式のもとに選定当事者の制限を設けこれを許容しているのであるから、通常はこの手続によるべきものではあるが、同条は、任意的な訴訟信託が許容される原則的な場合を示すにとどまり、同条の手続による以外には、任意的訴訟信託は許されないと解すべきではない。すなわち、任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法11条が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。

 そして、民法上の組合において、組合規約に基づいて、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する期限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえないのであって、民訴法四七条 による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。したがって、当裁判所の判例(昭和三四年(オ)第五七七号・同三七年七月一三日言渡第二小法廷判決・民集一六巻八号一五一六頁)は、右と見解を異にする限度においてこれを変更すべきものである。

 そして、本件の前示事実関係は記録によりこれを肯認しうるところ、その事実関係によれば、民法上の組合たる前記A企業体において、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を執行する権限を与えられた業務執行組合員たるXは、組合財産に関する訴訟につき組合員から任意的訴訟信託を受け、本訴につき自己の名で訴訟を追行する当事者適格を有するものというべきである。しかるに、これと異なる見解のもとに上告人が右の当事者適格を欠くことを理由に本件訴を不適法として却下した原判決は、民訴法の解釈を誤るもので、この点に関する論旨は理由がある、したがって、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、更に本件を審理させるためこれを原審に差し戻すこととする。


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