最判昭和44年2月27日民集23巻2号441頁


(百選第2版27事件)

(事実)

  訴外ABはX所有の土地を自己の債務の担保として、Xの代理人と称して債権者Yに対する根抵当権設定および所有権移転の登記を経由した。そこでXはYに対して所有権移転登記抹消を求める訴えを提起して勝訴したが、その判決確定後にYは根抵当権に基づく競売開始決定を得た。これに対してXは根抵当権設定登記抹消を求める訴えを提起し、併せて弁護士費用13万円の賠償を求めた。一審・原審ともX勝訴。


(判旨)

上告棄却

 「上告人Yは、右競売申立にあたり、前記各根抵当権の不存在について、かりに故意がなかったとしても、少なくとも社会通念上過失があったとした原審の判断は正当であるというべきである。しかして、右競売裁判所は、右競売申立に基づき同日競売開始決定をし、さらに競売期日の指定、公告等の手続を進めていたこと原判決の確定するところであるから、被上告人Xがこの競売手続を阻止する手段を講じなければ、被上告人Xの第一、第二物件の所有権の行使に一層重大な障害を惹起すること明らかであり、被上告人Xが右競売手続上の異議の申立等によりその手続の進行を阻止するにとどまらず、かかる根抵当権の実行を窮極的に阻止するため、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める本訴提起に及んだことも、けだしやむをえない権利擁護手段というべきである。

 思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によって自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。

 ところで、本件の場合、被上告人Xが弁護士Cに本件訴訟の追行を委任し、その着手金(手数料)として支払つた13万円が本件訴訟に必要な相当額の出捐であったとの原審の判断は、その挙示する証拠関係および本件記録上明らかな訴訟経過に照らし是認できるから、結局、右出捐は上告人の違法な競売申立の結果被上告人に与えた通常生ずべき損害であるといわなければならない。したがって、これと同趣旨の原審の判断は正当である。」


判例評釈・解説

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