最判昭和41年7月14日民集20巻6号1173頁



 本件記録によれば、本件訴訟の経過は次のとおりである。即ち、(1)被上告人(原告)が本件訴訟の訴状を第一審裁判所に提出した日時は、昭和37年3月13日であり、第一審裁判所の裁判長が第一回口頭弁論期日を指定したのは、同年3月14日である。(2)第一審裁判所が本件訴状と同37年4月4日の第一回口頭弁論期日の呼出状とをあわせて被告たるNあてに送達手続をとったところ同年3月23日送達された。(3)しかし、被告たるNは、同年3月16日死亡していたから、第一審裁判所は、右第一回口頭弁論期日を同被告の関係で開かず、口頭弁論期日をおって指定とする旨の措置をとつた。(4)その後、同年9月13日に、右Nの相続人たる上告人Y1、同Y2、同Y3は、弁護士Aを訴訟代理人に選任したうえ右Nの訴訟を承継する旨の申立を第一審裁判所に対してしたので、第一審裁判所は右受継を許可するとともに同37年10月3日の口頭弁論期日を開いた。(5)第一審裁判所は、その後10回の口頭弁論期日を開き、その審理結果にもとづき、同38年12月3日被上告人勝訴の判決をした。そこで、上告人Y1、同Y2、同Y3ほか六名の共同訴訟人は、被上告人を相手方として、控訴の申立をした。(6)第二審裁判所は、右控訴の申立にもとづき、前後3回の口頭弁論期日を開き、その審理結果にもとづき、同39年9月9日上告人らの控訴を棄却する旨の判決をした。(7)そこで、上告人6名は、被上告人を相手方として、上告を申し立てた。(8)前記第一、二審の訴訟においては、被告たるNの訴訟を上告人Y1、同Y2、同Y3ほかにおいて承継したことについては、右上告人3名からはもちろん、被上告人(原告)からもなんらの異議がでず、ただ被上告人の本訴請求の当否のみが争われてきた。以上の事実が認められる。

 以上の訴訟の経過にもとづいて、本件を検討するに、上告人Y1、同Y2、同Y3の三名は、前記のとおり、みずから被告たるNの訴訟を承継する手続をとりこれを承継したものとして、本件訴訟の当初からなんらの異議を述べずにすべての訴訟手続を遂行し、その結果として、被上告人の本訴請求の適否について、第一、二審の判断を受けたものである。このように、第一、二審を通じてみずから進んで訴訟行為をした前記上告人三名が、いまさら本件訴訟の当事者(被告)が死者であるNであったとしてみずからの訴訟行為の無効を主張することは、信義則のうえから許されないものと解するのが相当である(昭和26年(オ)第518号、同34年3月26日最高裁判所第一小法廷判決、民集13巻4号493頁参照)。したがって、論旨は、結局、失当として排斥を免れない。


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