最判昭和37年11月27日判時321号17頁


(事案)

 山林の売買契約をめぐり、Yはその山林を造材事業に用いるつもりであって、契約締結に際してXがYに「本件山林はもと南側に道路があったのにすぎないから造材の搬出は峠を越えその南側の道路に出る外なく、多大の経費を要するものであったが、現在では本件山林の北側山麓に開鑿道路が開通したので造林事業の経営上極めて有利である」との説明をした。Yはこれを信じて当初の買受希望価額を大巾に上回る代金で買受ける契約をした。ところが、本件山林の北側山麓には何らの道路がなく、北方の他人所有隣地約1里半を距てた箇所に始めて開鑿道路が存在するにすぎず、本件山林の造材搬出事業については殆ど利用価値のないものであった。そして原審によれば、右北側山麓道路が存在しないことを知っていたならば本件売買契約をなす意思はなかったものと認められている。
 Xの売買代金支払請求に対して、Yが錯誤を主張し、さらにXはYの重過失を主張した。原審は錯誤を認めて、重過失については事実摘示も判断も示さずに請求を棄却し、これにXが上告した。

(判旨)

破棄差戻
 錯誤と認めた点について、「右事実関係のもとにおいて、上告人が存在しない右北側道路に言及したことは不自然であり、被上告人は右北側道路が存在しないことを知っていたならば、本件売買をする意思がなかったということは取引上至当であり、右北側山麓道路が存在することは本件売買契約の要素をなすものであって、右契約締結に際し北側道路の存在するものと誤信した被上告人に錯誤があるとの原審の判断は相当である」
 重過失について、「記録を調べてみると上告人は昭和34年9月30日の原審口頭弁論において同日付準備書面(記録346丁)により、本件北側開鑿道路の存否について調査しなかった被上告人には重大な過失があるとの主張をしているにも拘わらず、原判決はこの事実を摘示せずまたこれに対して判断が与えられた形跡が窺えない。してみると原判決にはこの点につき判断を遺脱し、理由不備があるものであって、原判決は破棄を免れない。」


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