最判昭和31年4月3日民集10巻4号297頁

百選185

(事実)

 Xは自らの所有土地(1)および息子A所有の土地(2,3)について、Yのための抵当権設定登記をしていたが、土地(1)については抵当権設定登記を抹消して改めて所有権移転登記がなされていた。

 Aが死亡して土地(2,3)についても相続により所有権を取得したXは、Yに対して土地(1)の移転登記は売渡担保のためであったが、被担保債権は完済したと主張して所有権移転登記を請求し(イ)、土地(2,3)の抵当権は土地(1)の売渡担保で消滅したとして、その設定登記の抹消登記を求める訴え(ロ)を提起した。

 Yは土地(1)の所有権移転登記が担保ではなく売買によるものであると主張し、仮に売渡担保であったとしても被担保債権はX主張の額よりも多く、未だ完済されていないと主張し、併せて損害賠償を求める反訴(ハ)を提起した。原審はYの予備的主張を認め、土地(1)についての移転登記請求を棄却した。

 これに対してYは、売渡担保ではなく売買であったことを理由とする請求棄却を求めて上告した。


(判旨)

上告棄却

「本件上告理由を見るに、すべて上告人が勝訴した被上告人の(イ)の請求につき、原審がなした判決理由中の判断を攻撃するにとどまり、上告人が敗訴した(ロ)及び(ハ)の請求に対する不服でないことが明らかである。そして所有権に基く登記請求の訴についてなされた判決の既判力は、その事件で訴訟物とされた登記請求権の有無を確定するにとどまり、判決の理由となった所有権の帰属についての判断をも確定するものではないから(昭和28年(オ)第457号、昭和30年12月1日第一小法廷判決参照)、上告人は本件において(イ)の請求につき敗訴しても、なお、自ら訴を提起し又は相手方の請求に応訴することによって、(一)の不動産の所有権が自己に存することを主張して争うことができるのであるから、所論は結局上告の前提たる利益を欠くものと云わなければならない。」


判例評釈・解説

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