最二判平成14年4月12日民集56巻4号729頁

平成11年(オ)887号、平成11年(受)741号横田基地夜間飛行差止等請求事件
要旨:
  外国国家の主権的行為については,国際慣習法上,民事裁判権が免除される。
参照・法条:民事訴訟法第1編第2章、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定18条5項,憲法98条2項
 原審:東京高判平成10年12月25日 (平成9(ネ)2195)

(事実)


本件は,上告人らが,我が国に駐留するアメリカ合衆国(以下「合衆国」という。)軍隊の航空機の横田基地における夜間離発着による騒音によって人格権を侵害されているとして,被上告人である合衆国に対して,午後9時から翌朝7時までの間の上記航空機の離発着の差止めと損害賠償を請求した事案である。

(判旨)



 2 原審は,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和35年6月23日条約第7号)18条5項の規定は,上記相互協力及び安全保障条約に基づき我が国に駐留する合衆国軍隊の構成員の公務執行中の不法行為に基づく損害賠償請求訴訟について,合衆国に対して我が国の裁判権に服することを免除したものであり,差止請求訴訟についても同規定の趣旨が類推適用されるとして,被上告人の民事裁判権免除を認め,上告人らの本訴請求は不適法であり却下すべきものであるとした。

 3 しかしながら,前記規定は,外国国家に対する民事裁判権免除に関する国際慣習法を前提として,外国の国家機関である合衆国軍隊による不法行為から生ずる請求の処理に関する制度を創設したものであり,合衆国に対する民事裁判権の免除を定めたものと解すべきではない。

 外国国家に対する民事裁判権免除に関しては,いわゆる絶対免除主義が伝統的な国際慣習法であったが,国家の活動範囲の拡大等に伴い,国家の私法的ないし業務管理的な行為についてまで民事裁判権を免除するのは相当でないとの考えが台頭し,免除の範囲を制限しようとする諸外国の国家実行が積み重ねられてきている。しかし,このような状況下にある今日においても,【要旨】外国国家の主権的行為については,民事裁判権が免除される旨の国際慣習法の存在を引き続き肯認することができるというべきである。本件差止請求及び損害賠償請求の対象である合衆国軍隊の航空機の横田基地における夜間離発着は,我が国に駐留する合衆国軍隊の公的活動そのものであり,その活動の目的ないし行為の性質上,主権的行為であることは明らかであって,国際慣習法上,民事裁判権が免除されるものであることに疑問の余地はない。したがって,我が国と合衆国との間でこれと異なる取決めがない限り,上告人らの差止請求及び損害賠償請求については被上告人に対して我が国の民事裁判権は及ばないところ,両国間にそのような取決めがあると認めることはできない。以上によれば,本件訴えは不適法であり,これを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


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