約束手形の所持人が裏書人に対して手形金の支払いを請求した訴訟である。
本件手形はAがXとの売買契約の代金支払のために振り出したもので、Yは保証の趣旨で裏書をした。Xの請求を受けてYらは、原因関係たる売買契約に、「Aが代金支払のために環境事業団から融資を得られたときに初めてその効力を生ずるとの停止条件」または 「右融資が得られないときに本件売買の効力を失わせる旨の解除条件」がついており、結局融資は得られなかったので停止条件未成就または解除条件が成就したと抗弁した。
これに対してXは、再抗弁として、Aは、故意に環境事業団から融資を得られないようにしたから、(1)故意に停止条件の成就を妨害したか、又は(2)故意に解除条件を成就させたものであると主張した。
ところが、原判決は、停止条件の不成就と解除条件の成就をいずれも抗弁として摘示しながら、再抗弁としては、停止条件の成就妨害のみを摘示し、解除条件の成就作出を摘示していない。その上で、本件売買は解除条件が成就し無効となったから本件裏書は原因関係を欠くに至ったとして、解除条件成就の抗弁を入れながら、解除条件の成就作出については何らの判断も加えないで、上告人の請求を棄却した。
そこでXが上告し、原判決には民訴法312条2項6号の「判決に理由を付さないこと」(理由不備)に当たると主張した。
破棄差戻
「原判決の右違法は、 民訴法312条2項6号により上告の理由の一事由とされている「判決に理由を付さないこと」(理由不備)に当たるものではない。すなわち、いわゆる上告理由としての理由不備とは、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていることをいうものであるところ、原判決自体はその理由において論理的に完結しており、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けているとはいえないからである。
したがって、原判決に所論の指摘する判断の遺脱があることは、上告の理由としての理由不備に当たるものではないから、論旨を直ちに採用することはできない。しかし、右判断の遺脱によって、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるものというべきであるから( 民訴法325条2項参照)、本件については、原判決を職権で破棄し、更に審理を尽くさせるために事件を原裁判所に差し戻すのが相当である。」