最二小判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁


(要旨)

 金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない

 原審:東京高等裁判所

(事案)

 Xは、宗像市の約10万坪の土地の買収と市街化地域組み入れの働きかけをする旨の業務委託をYから受け、その報酬の一部としてYが同土地の宅地造成と販売をする際はXが一割分の販売・斡旋をすることを約した。しかしYは宅地造成することなく訴外開発公社に売却してしまったので、Xは債務不履行により契約を解除した。その後、XがYに対して報酬21億円のうちの1億円分の支払いを求める訴えを提起した。(主位的には商法512条、予備的には民法130条を根拠として)
 この前訴は全部棄却され、確定した。そこでXは再度訴えを提起し、主位的には報酬請求権のうち前訴で請求した1億円を除く残額が2億9830万円であると主張してその支払を求め、予備的請求の一として、商法512条構成の残額報酬請求権2億9830万円の支払を求め、予備的請求の二として、本件業務委託契約の解除により報酬請求権を失うというYの損失において、Xが本件土地の交換価値の増加という利益を得たと主張し、不当利得返還請求権に基づいて報酬相当額2億6730万円の支払を求めた。

 第一審は本件各訴えを前訴の蒸し返しで信義則に反するとして訴えを却下したが、原審は、それぞれ信義則に反する特段の事情は認められないとして、取消し差し戻した。これにYが上告した。

(判決)

主文:破棄自判(控訴棄却)

理由
1 一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり、債権の特定の一部を請求するものではないから、このような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち、裁判所は、当該債権の全部について当事者の主張する発生、消滅の原因事実の存否を判断し、債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号1355頁参照)、現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し、現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し、債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって、当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、言い換えれば、後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって、 右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、被上告人の主位的請求及び予備的請求の一は、前訴で数量的一部を請求して棄却判決を受けた各報酬請求権につき、その残部を請求するものであり、特段の事情の認められない本件においては、右各請求に係る訴えの提起は、訴訟上の信義則に反して許されず、したがって、右各訴えを不適法として却下すべきである。

2 予備的請求の二は、不当利得返還請求であり、前訴の各請求及び本訴の主位的請求・予備的請求の一とは、訴訟物を異にするものの、上告人に対して本件業務委託契約に基づく報酬請求権を有することを前提として報酬相当額の金員の支払を求める点において変わりはなく、報酬請求権の発生原因として主張する事実関係はほぼ同一であって、前訴及び本訴の訴訟経過に照らすと、主位的請求及び予備的請求の一と同様、実質的には敗訴に終わった前訴の請求及び主張の蒸し返しに当たることが明らかである。したがって、予備的請求の二に係る訴えの提起も信義則に反して許されないものというべきであり、右訴えを不適法として却下すべきである。


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