最判平成4年4月28日

判時1455号92頁、判タ815号144頁

(事実)

 Xは、昭和38年に八王子の山林を購入し、その一部を妻との共有名義に登記し、残部を当時同棲中のYの名義に移転登記をした。その後XとYは不和となり、子どもができた後にXは出ていった。そしてYに本件土地の登記名義を返すよう要求した。

 Yは、気性の激しいXと直接交渉するのを嫌い、横浜や名古屋などに引っ越したが住民登録の変更はせず、時々は親戚に連絡したり、月に一回程度はXの代理人A弁護士に自ら電話をして本件土地の交渉を継続したが、その際も自らの居所は明らかにしなかった。

 本件土地をめぐる交渉はXが買い取るか他の土地と交換する方向で進んだが、X側からYへ連絡がとれず、調停の申立もYへの連絡がつかないため取り下げることとなった。しかし調停取下げの前にYは自ら上京してA弁護士らと面会し、本件土地の鑑定書面の写しを渡されてその検討を求められ、本件土地の代替地を確保することを同弁護士らが約束すれば提案に応じてもよい、同年8、9月ころまで外国に行っている旨を話したが、この時もYは連絡先を教えなかった。

 Xは平成元年4月25日、A弁護士らを訴訟代理人として、Yに対し、真正な登記名義の回復を原因とする本件土地の所有権移転登記手続を求める本訴を東京地方裁判所八王子支部に提起し、期日呼出状及び訴状副本を元の住所である丙川荘に送達する手続がとられたが、転居先不明のため送達不能となった。そこでX側は転居先不明の疎明資料を添付して公示送達の申立てをし、同年7月3日これが許可された。なおYの子どもBが同年六月ころ、Xあてに、Yは同年8、9月に帰国し、その後は中野区内の叔母方に住民票の住所を移す予定である旨記載した書面を送付していた。

 本訴は第二回口頭弁論期日(同年7月27日)で弁論終結、同年8月22日X勝訴判決が言い渡され、Xは、同年9月11日右判決に基づき本件土地につき自己名義に所有権移転登記を経由した。

 Yは妹から登記完了通知の到達を知らされ、調査の結果公示送達による訴状・判決送達の事実を知り、控訴を提起したが、原審はYの責めに帰すべからざる事由により控訴期間を遵守することができなかったものとはいえないから、控訴の追完は許されず、本件控訴を不適法として却下すべきであるとした。

 Y上告。


(判旨)

原判決破棄差戻

 「被告について送達すべき場所が不明であるとして原告から公示送達の申立てがされ、一審判決正本の送達に至るまでのすべての書類の送達が公示送達によって行われた場合において、被告が、控訴期間の経過後に控訴を申し立てるとともにその追完を主張したときは、控訴期間を遵守することができなかつたことについて民訴法159条にいう「其ノ責ニ帰スヘカラサル事由」の存否を判断するに当たり、被告側の事情だけではなく、公示送達手続によらざるを得なかったことについての原告側の事情をも総合的に考慮すべきであると解するのが相当である。

 これを本件についてみるのに、前記事実関係によると、Xやその代理人は、本訴提起の直前である平成元年3月に至るまでYと本件について継続的に和解の交渉をしており、X側の譲歩を内容とする和解成立も予想できる状況にありながら、しかも、Yが同年8、9月ころまで外国に行くとの連絡を受けていたにもかかわらず、その海外渡航による不在期間中に当たる同年4月25日本訴を提起し、Yがその住民登録をした丙川荘に居住していないことを承知しながら、その旨を確認した上、その転居先不明として、同年7月3日裁判所から公示送達の許可を受け(記録によれば、本訴の提起を急がなければならない事情は見当たらないし、Xは、Yが同年8、9月まで外国に行き、その後中野区内の叔母方に住民票の住所を移す予定である旨記載された前記書面を手中にしながらこれを裁判所に提出せず、それまでの交渉経緯等の一切の事情を伏せたまま手続を進めたことがうかがわれる。)、Y不出頭のまま勝訴判決を得たのであり、Yとしても、同年8、9月までは本邦に不在であることをXの代理人に連絡した以上、このような経緯で本訴が提起されることは予測し得なかったものというべきであり、Xの側には、公示送達制度を悪用したとの非難を免れない事情があるといわなければならない。そして、これらの事情をも総合考慮すると、YがXの粗暴な言動を恐れて住民登録の変更をせず、その居住場所、連絡先をXに知らせなかったとの事情があったとしても、Yは、その責めに帰すべからざる事由により控訴期間を遵守することができなかったものというべきである。」


判例評釈・解説

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