大阪高決昭和54年2月28日判時923号89頁

判タ389号100頁
百選34

(事実)

 X1,2夫妻の子X3は、鹿児島市立病院で未熟児として生まれたが、保育中に未熟児網膜症に罹患し、県立宮崎病院に転送されて治療を受けたが失明してしまった。X1らはその後奈良県に引っ越し、Y1(鹿児島市)およびY2(宮崎県)を相手取って損害賠償の訴えを義務履行地である奈良地裁に提起した。なおその際X1らは訴訟救助を受けている。

 証人はほとんどが鹿児島および宮崎の医療関係者であり、また現場の検証場所も鹿児島であることから、Y1らは本訴訟を鹿児島地裁または宮崎地裁に移送するよう申し立てた。原決定は宮崎地裁への移送を決定したので、X1らが抗告した。


(決定要旨)


原決定取消、移送申立却下

「民訴法 31条は、複数の管轄裁判所が存在する事件について、そのうちの一つの裁判所を選択して提起された訴訟を、「著キ損害又ハ遅滞」を避ける必要があることを要件として、他の管轄裁判所に移送したうえ審理することを認めている。右要件のうち「著キ損害」の有無の判断は、当事者の訴訟遂行上の具体的な利益を中心として判断されるべきであり、右にいう「著キ損害」を避ける必要があるか否かの判断に際しては、直接的には訴えの相手方当事者である被告側の受ける不利益が考慮されるべきことは勿論であるが、それと同時に事件が移送されることにより原告側が受けることになる不利益についても十分な配慮をする必要がある。この観点から裁判所としては、移送の要否の決定については、当事者の訴訟遂行能力についても十分検討すべきものといわなければならない。これに対し「著キ遅滞」を避ける必要があるか否かの判断は主として公益的な見地からなされるものであり、結局右損害及び遅滞の両要件を総合的に比較考量して判断すべきものである。」

(中略・証人のほとんどが鹿児島・宮崎にいて出張尋問は考えられ図、移送した方が便宜であること、X1らは訴訟救助を受けるなど経済的に恵まれないことを指摘して、)「審理の便宜費用の点では移送を可とするが、なによりも移送すればX1は経済的な損害のため裁判を受ける権利にも影響を受けることが考えられる以上本訴は繋属中の奈良地方裁判所で審理し、宮崎地方裁判所へ移送しないのが相当である。」



判例評釈・解説

民訴判例集目次
T&V[B]