McINTYRE vs. OHIO ELECTIONS COMMISSION,

115 S. Ct. 1511, 1516 (1995)
(連邦最高裁1995.1.19判決)

匿名言論の自由が連邦憲法修正第1条により保障されるとした判決

【事案】

 McIntyreは、学校課税法案に反対する「関係する親と納税者」の見解を表明するべく、小冊子を配布した。そして彼女は文書の発信者や発信組織の住所氏名・名称を書いていないキャンペーン文書配布を禁じているオハイオ州法典3599.09条(A)違反の廉で、被上告人により100ドルの罰金を課せられた。
 一審は罰金を取り消したが、オハイオ高裁は再び罰金を課した。州最高裁も原審を支持し、選挙民の修正第一条の権利に対して3599.09条(A)が課している制約は、合理的で差別的ではないので有効だと判示した。州最高裁は、3599.09条(A)は詐欺や中傷、または虚偽の広告を含んでいるキャンペーン素材を配布した者が誰かを特定し、そうした素材を評価するための仕組みを選挙民に提供しようとしていると判示し、あらゆる匿名小冊子を禁止した命令を無効と判示した Talley v. California, 362.US. 60 とは事案が違うとした。(67 Ohio St. 3d 391, 618 N. E. 2d 152)
 McIntyre氏の上告申立は、わずか100ドルという経済的価値にも関わらず、受理された。


【判旨】スティーブンス判事による法廷意見

I 事実経過(略)

II 匿名表現も修正第一条の保護を受け、また匿名作品が人類進歩の重要な役割を果たしてきたことはTalley事件で判示した通りである。
 匿名性を守る動機は、経済的な、あるいは公的な仕返し、社会的追放を避けるためであったり、単にプライバシーを守るためであったりである。少なくとも文学作品においては匿名保持が修正第1条の保護を受けることは異論がない。
 そしてその匿名で表現をする自由は文学の領域にとどまらない。Talley v. Californiaでは、雇用差別をしたロスの商店に対する不買運動を呼びかけた匿名ビラが保護された。
 さらに、匿名であるが故に、発言者が誰であるかにとらわれない判断を読者ができるという利点もある。通常は発言者の名前を出すことがより説得力を増すと考えられる政治的言論の場においてさえも、政治的な呼びかけを匿名で行うことが最も説得的である場合もある。
 かくして、Talley事件での推論は事案の特殊性を越えて、一般的な匿名言論の擁護に及ぶのである。

III 詐欺等を防止するためだという立法目的が主張されているが、カリフォルニアの場合もオハイオの場合も、法文の適用が詐欺などの不当なケースに限られているわけではない。
 確かにオハイオは選挙有権者に影響を与える出版物に限って匿名を禁止しており、何らの制限もおいていなかったカリフォルニアの規定に対する判決の射程がおよばないものということはできる。そしてオハイオ州最高裁は「通常の紛争」テストの下で、合理的かつ非差別的制約であるから許されるとした。
 しかし通常の紛争テストは適用されない。これは選挙過程の制限ではなく純粋に言論の問題であり、しかも言論の内容に立ち入っての規制である。
 加えて政治的言論の自由な流通は特に保障されるべきである。そしてマッキンタイヤ夫人の訴えもこの政治的言論に当たる。
 このような政治的言論を制限するためには、これに優越する州の利益がなければならない。オハイオ州最高裁はこの種のケースに適切な基準よりも明らかに緩やかな基準を適用したものである。

IV この点で州は二つの利益を主張している。すなわち詐欺的・侮蔑的言辞の予防であり、選挙民への重要な情報提供である。
 まず選挙民への重要な情報提供という点についてみると、発言者のアイデンティティは必ずしも他の言論内容と区別されるものではなく、発言者が表示するか否かの自由を否定できるものではない。
 詐欺的・侮蔑的言辞の予防についてみると、確かに選挙期間中の虚偽の表現は重大な結果をもたらす。しかしこの点の防止は本件の問題の条項だけが果たしているわけではなく、選挙法典の他の規定が虚偽表現の防止を目的としているので、結局匿名のパンフレットを禁止する規定は詐欺を防止する主要な武器ではないことになる。

V 会社による選挙キャンペーンで責任の帰属を明らかにしなければならないなどとした先例は、匿名によるキャンペーンの禁止に関するものではないので適当できない。

VI  現憲法の下で匿名による政治的訴えは有害で詐欺的な行為ではなく、名誉ある伝統である。匿名性は多数の暴力からの盾である。普通の個人が狭量な世間の嫌がらせや抑圧からその思想を守るという点で、匿名性は権利章典と特に修正第1条の趣旨に適うものである。確かに詐欺的な言辞に用いられれば匿名の濫用ということにもなる。しかし政治的言論はそれ自体時として不味い結末を伴う。そして一般に我々の社会は言論の自由の方を、その濫用可能性にもかかわらず、重視してきたのである。
 結局、州は詐欺を罰することはもちろんできるが、一定種類の言論をその内容に基づいて無差別に違法とすることで間接的に詐欺を罰しようとすることは許されない。


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作成責任者:町村泰貴
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