アルテルン・オルグ事件

会員がウェブページ上でプライバシー侵害行為した場合について、
ウェブサーバープロバイダの民事責任がレフェレ(仮処分)により認められた
フランスの判例

【事案】

 インターネットのサーバーレンタルを行うプロバイダArternBにおいて、有名なマヌカンであるEstelle Hallydayのプライベートな写真19枚が無断でウェブページに掲載されていた。その写真はSilversurferと称するユーザーのページにあったが、その氏名は不明であった。そこでEstelleは、ArternBを運営するValentin Lacambreほか一名を相手方として、写真の違法な配信により職業上も私生活上も重大な損害を引き起こしたとの理由で、本件写真のインターネット上での配信を停止すること、50万フランの損害賠償仮払い、新聞およびArtern.orgのサイトのトップページへの本件裁判内容の掲載などを求めるレフェレの申立をした。
 これに対してValentinは、問題のサイトがすでにアクセスできない状態にあるのでトラブルは解消していること、自らは無償でサーバーおよびシステムの利用を提供したにとどまり、ウェブサイトの内容はその所有者自身の責任であること、プロバイダの責任をめぐる判断はレフェレによるべきではなく、本案審理により下されるべきことを主張した。

パリ大審裁判所1998年6月9日決定要旨】

 パリ大審裁判所は、Valentinに対して、彼のサーバーを利用した本件写真のあらゆる配布を不可能にするための措置を実行することをレフェレ手続により命じ、一日あたり10万フランのアストラント(4)を付したが、損害賠償などその他の請求は本案審理が必要であるとして却下した。
 その理由として裁判所は、プライバシーおよび肖像権が絶対的に保護されることおよびValentinの運営するサーバー上で問題の写真が公開されていたことを認定した上で、次のように述べた。
 まずプロバイダは、自らが受け入れるウェブデータが良俗に適うもので、ウェブを規律する倫理規則を遵守しており、そして法令及び第三者の権利を尊重していることを、監督する義務がある。そして一般公開されているページについては、自らが受け入れているページの内容を調べることが他の利用者と全く同様に可能なので、必要な場合は第三者への妨害行為をやめさせる措置をとることができる。その責任を免れるためには、顧客の発信する情報における人格権、著作権、商標権などの尊重や、第三者の権利侵害が明らかとなった場合になすべき調査の実際および侵害行為をやめさせるためにとるべき措置を明らかにしなければならない。
 しかしこれらの点について判断するには対審的審理が必要であるとし、結局結論としては、緊急性に鑑みて問題の写真の配信を不可能にする措置をアストラント付きで命じるにとどめた。

パリ控訴院1999年2月10日決定要旨】

 一審決定に対する申立人と相手方の双方の抗告に基づき、パリ控訴院は一審による配信停止の命令を取り消す一方、レフェレにより申立人の請求する損害賠償金30万フランの仮払いと新聞3紙への判決の掲示などを命じる決定を下した。
 その理由は、まず問題の写真がすでに削除されている以上、重ねて配信停止措置をとることをアストラント付きで命じることはできないとした。その上で損害賠償金については、一審決定が本案審理を必要と判断したのを原則として正当と認めつつも、本件のように匿名でのウェブページ開設を認めているプロバイダの場合には、しかも無償サイトであっても報酬は確かにあるのであり、明らかに単なる情報伝達機構の役割を越えて、そのような利用条件の下で侵害されるかもしれない第三者の権利を保全しなければならず、申立人の請求する損害賠償金の仮払いは認められると結論づけた。
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作成責任者:町村泰貴
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